PHASE4 「足付き」奪取作戦 





見事ストライクガンダムを奪取したラスティは、早々に機体を起動して工場から出た。そこでは、まだミゲル達が地球連合軍と戦っていた。

「アスラン!」

ストライクガンダムを見たミゲルは、アスランが作戦に成功したものと思い込み、疑いもせずに声をかけた。

「ああ、成功した。もうすぐ、アスランも来るだろうよ」

ラスティは、少し不満気に返事をした。

「なんだ、ラスティだったのか。アスランを出し抜くとは、凄えな」

事情を知らないミゲルは、ラスティが先に敵の新型起動兵器を奪取したものと早合点して驚いた。

「ま、まあな」

アスランの獲物を横取りした格好のラスティは、ちょっとぎこちない返事をしたが、そこにアスランから通信が入った。 

「ミゲル、作戦は成功した。全員無事だ。ラスティ、俺達は先に行くぞ。ミゲルは、俺達の援護を頼む」

「おお、任せとけ」

ミゲルが良く見ると、アスランの奪取した赤い機体には仲間が数人取りついていた。これでは、戦闘は出来ないだろう。良く見ると、ラスティの機体には誰も取りついていない。ミゲルは、アスランが遅れた真の理由を理解した。仲間想いのアスランらしい。ミゲルは苦笑した。

「ラスティ、お前が先に行け。無事に隊長の所に届けるんだぞ」

「当然っしょ」

ラスティは、陽気に返事をした。




ヘリオポリスの外では、ザフトのジンと地球連合軍のモビルアーマーのメビウスや戦闘ポッドのミストラルが激しい戦いを続けていた。数では圧倒的に勝る地球連合軍だったが、次々とジンに撃破されていく。

「やっぱり、ジン相手には厳しいか」

モビルアーマーのパイロット、ムウ・ラ・フラガは悔しそうに呟いた。彼はモビルアーマーのエースパイロットであり、一度の会戦で最高5機のジンを葬ったことがあるのだが、ジン1機にてモビルアーマー(MA)37機、戦艦6隻を一度の会戦で撃沈したザフトの英雄クルーゼとは比べるべくもない。

それは、元々機体性能に大きな差があるからだ。地球連合軍では、当初モビルアーマーとモビルスーツの機体戦力比を2対3ないし1対2と見込んでいたのだが、現実の戦闘では概ね1対5であったのだ。20世紀末の戦闘機の空中戦では、旧式戦闘機2機で最新鋭機1機に勝てたという。それから考えると、モビルアーマーとモビルスーツの戦力差は想像を絶するものなのだろう。

それ故に、ザフトは圧倒的な戦力差にもかかわらず、地球連合軍と互角以上に戦ってきたのである。それをパイロットの技量でカバーするのには限界がある。しかも、ザフトはいくらコーディネーターで構成されているといはいえ、その殆どが戦闘の素人の集まりなのだ。

機体戦力比がこの状態で戦いが長引けば、いずれは地球連合軍は負けるに違いない。ザフトパイロットの熟練度は上がっていき、逆に地球連合軍パイロットの熟練パイロットは次々に戦死して熟練度は下がっていくからだ。それを防ぐためには、機体戦力比をせめて1対2以下にする必要がある。それにいち早く気付いたデュエイン・ハルバートンという軍高官が、「G兵器」の開発を推し進めたのだ。

ムウは、その「G兵器」−ガンダム−のパイロットの護衛のためにヘリオポリスにやって来たのだが、運悪くこのザフトの襲撃に居合わせてしまい、こうしてジンと戦っているのだ。だが、仲間は次々と撃墜されていき、残りは数少ない。

「こりゃあ、潮時かねえ」

ムウは、付近の味方と連絡をとり、敵の追撃を逃れてヘリオポリス内に進入した。




「アークエンジェル、発進準備急げっ!」

新造戦艦アークエンジェル内では、地球連合軍のナタル・バジルール少尉が声を張り上げていた。敵の襲撃直後、艦長に命じられてモルゲンレーテ社の工場にいるはずのマリュー・ラミアス大尉の所へ向かおうとしていたのだが、その途中で大きな爆発に巻き込まれたのだ。ナタルが気付いてみたら、周りは死体だらけ。そこで、急ぎ生き残った者を数名探し集めて、アークエンジェルの艦橋に来たのだった。

艦橋に来たら、状況は掴めずに他の場所とは全く連絡がとれない。さりとてこのままここにいては、遠からずこの戦艦が敵の手に渡るのは必至である。敵の電波妨害は未だに続いていることから、敵の第一目標がモルゲンレーテ社の工場にある地球連合軍の「G兵器」と呼ばれる新型起動兵器である可能性が高い。もしかしたら、今も戦闘が続いている可能性がある。それならば、一刻も早くこの戦艦を向かわせて、味方の援護をするつもりだったのだ。

「特装砲を発射と同時に、最大船速!」

発進準備が整ったと報告を受けたナタルは、アークエンジェルの最強兵器を用いて隔壁を吹き飛ばし、発進させることに成功した。




「お帰りっ!ラスティ!アスラン!」

戦艦ヴェサリウスに無事に戻った二人に、アスカは飛びついて頬ずりした。

「おいおい、どうしたんだよ」

アスランは、突然のことにびっくりするが、ラスティは無言である。余計なことを言えば、この至福の時間が早く終わると思ったからだ。

「いいなあっ」

その光景を見たミゲルは、遠くから羨ましそうに呟く。そして、俺も無事に戻ったばかりなんだけどと呟くが、誰も聞いちゃいない。

「おかしいですね」

一方、ニコルは何となく違和感を感じていた。アスカがこんな行動をしたこともそうだが、アスランよりもラスティの名前を先に呼んだからだった。

「なんだよ、俺達が失敗したとでも思ったか」

外野の言葉とは関係なくアスランが苦笑するが、アスカは口を尖らして反論した。

「だってさ、随分遅かったじゃない。だから、心配しちゃったのよ」

そんなやりとりを見て、ニコルは納得した。アスラン達が遅かったので、随分心配したのだろうと。そうして、違和感を振り払った。




「な、なんだとっ!「G」が全機奪われただとっ!」

ヘリオポリス内に入り、生き残った地球連合軍兵士から衝撃的な報告を受けたナタルは、みるみるうちに真っ青になった。敵はおそらく現在補給中であり、再び攻撃して来るのは間違いない。タイムリミットは、長くても数時間だろう。

「少尉、どうしましょうか」

アーノルド・ノイマン曹長が尋ねると、ナタルは即座に命令した。

「アークエンジェルを地表に降ろせ。そして、1時間以内に積み込めるだけの物資を積み込むんだ。生き残った兵士も、可能な限り収容する。急げ、時間はそうないぞ」

「はい、了解しましたっ!」

アーノルドは、直ぐに返事をした。だがその時、味方からの通信が入った。

「おい、お前達は地球連合軍か。着艦許可を願いたい。俺は、ムウ・ラ・フラガ大尉だ」

「よろしい、着艦を許可する」

ナタルは即座に答えた。それと同時にほっとした。これで、自分が艦長になる可能性がほぼ無くなったことに気付いたからだ。他の上官が全て死亡したとしても、自分よりも上官のムウが艦長の任に就くはずだからだ。




「はあっ、はあっ、はあっ……」

モルゲンレーテ社の工場から逃げ出したキラは、背中に気絶した巨乳美女を乗せて歩いていた。先程まで走っていたため、それとも背中に何かが当たるためか、息が荒い。

「これからどこへ逃げようか」

途方に暮れたキラだったが、そこに懐かしい声がした。

「おい、キラじゃないか!」

振り向くと、友人のサイ達が立っていた。トール、ミリアリア、カズイも一緒である。

「良かったあ。どうしたら良いのか分かんなくて」

キラは、仲間達に会えてほっとした。だが、それも束の間だった。

「で、背中の女性は誰なの?どうしてオンブしてるの?」

ミリアリアに聞かれて、キラは何と言って良いのか分からなかった。それで、仕方なくこうなった経緯を話した。

「……それで、一応止血して、人工呼吸をしたんだけど目を覚まさなくて」

それを聞いて、その場の皆が固まる。そして数秒経ってから、ミリアリアが目を吊り上げながら言った。

「キラ……。人工呼吸って、息が止まった時にするものなのよ。知らないの?」

「えっ、そうだったっけ」

キラは、呆然とした。どうやら、慌てていて間違えてしまったようだ。実に、男にとって都合の良い勘違いではあるのだが。

「いいなあっ、そんな美人とキス出来るなんて」

恋人トールの呟きに、ミリアリアはキッと睨む。途端にトールはペコペコと謝りだす。キラも真っ赤になってしまった。そんな時、巨乳美女から小さい音で何かが聞こえた。

「あれ、なんだろう」

サイが調べると、巨乳美女のポケットに通信機らしきものが見え、そこから何かが聞こえているらしい。耳を澄まして聞くと、どうやらモルゲンレーテ社の工場近辺に生き残った地球連合軍兵士は集まれと言っているらしい。

「おい、あれ見ろよ。戦艦が飛んでいるぞ」

カズイの指し示す方向を見ると、アークエンジェルが飛んでいた。そのアークエンジェルが地表に降り立とうとしているのを見て、キラ達はアークエンジェルの方向へと走って行った。




「大尉!マリュー・ラミアス大尉!」

アークエンジェルに着くなり、整備士らしき男が巨乳美女を見て叫んだ。

「この人、怪我をしてるんです。早く手当てをして下さい」

キラが頼むが、男は首を振った。医者も看護士もいないので、ろくな手当てが出来ないのだと言う。シェルターが一杯でどこにも入れないので、何とかならないかと聞いたが、その男は分からないと言う。そして、男は誰かと連絡した後、マリューを艦橋まで連れて行くよう頼んだ。人手が足りないからだという。

キラは、頷いてマリューを背負いながらも艦橋へと連れて行った。すると、ナタルがキラにマリューを艦長席に座らせるように頼んできた。頷いて言う通りにした後、アーノルドが近付いて注射をしたら、少しうめいたあとでマリューが目を覚ました。

「良かった」

思わずキラは言った後、その場から立ち去ろうとした。だがそこに、ムウが声をかけた。

「えっと、君の名前はなんて言うのかな」

「キラ、キラ・ヤマトです」

「キラ君、悪いけど俺達の手助けをしてくれないかなあ」

「えっ」

キラは、一瞬何を言われているのか分からなかった。だが、ムウは簡潔丁寧に説明した。

これからこの戦艦−アークエンジェル−で逃げること。
ザフトに追撃され、戦闘になる可能性が高いこと。
今は人員不足で、猫の手も借りたい状態であること。
生き残ったのは整備士が殆どで、他のクルーが全く足りないこと。
だから、どんなことでもいいから協力して欲しいこと。
無理強いはしないが、いつ戦いが始まるのか分からないこと。
そのため、戦闘に巻き込まれてキラ達が死ぬ可能性があること。
とはいえ、この戦艦に乗っていても撃沈されて死ぬ可能性が高いこと。
だから、友人達とよく話して相談して決めてほしいこと。


ムウの後ろから、ナタルが民間人を巻き込むのかと文句を言ったが、ムウはこの子達の命がかかっているから、この子達に選択させるのが筋だ、それに俺の方が上官だと言って黙らせた。

「そ、そんなあ」

キラは、命がかかっていると言われて真っ青になったが、ムウに早く結論を出さないと出発すると言われて、慌てて飛び出して行った。そして、地表で待っていたサイ達に相談したところ、一か八かこの戦艦に乗ろうということになった。

サイ達は、ずっとシェルターを探していたのだが、結局全部満杯で入れなかったのだ。しかも、戦闘によって破壊されたシェルターもあると聞いたからだった。決定打はトールの一言だった。トールは、どうせ死ぬならミリアリアと一緒がいいと言って、ミリアリアの頬を涙で濡らしたのだ。

こうして、とにかく結論を出したキラ達は、艦橋へと全員で向かった。そこで、キラ達の経歴などを聞かれ、早速持ち場を割り当てられた。どうやらキラ達の経歴は、艦橋要員にうってつけだったらしい。結局サイ、ミリアリア、トール、キラ、カズイの5人共、艦橋で働くことになったのだ。

サイ、ミリアリア、キラの3人はCIC−Combat Information Centerの略で戦闘指揮所−という場所に交代で詰めることになった。そのため、ジャッキー伍長とロメロ伍長から何をするのかレクチャーを受けた。なお、CICの区画はマリューの座る艦長席の左下にある小部屋にあった。

トールはアーノルド曹長の横、艦長席の前方で副操縦士を担当する。カズイはダリダ伍長の後ろ、艦長席の後方でダリダと一緒に通信を担当することになった。

こうして、ムウの機転で艦橋の要員確保はなんとかなったが、これからどうしようかとマリュー、ムウ、ナタルの生き残った士官(少尉以上)3人で相談した。最初にムウの提案で、同じ大尉でもアークエンジェルのことを良く知っているマリューが適任と、マリューが艦長になることになった。

次にこれからどうしようという話しになったが、それはとにかく逃げることで3人の意見は一致した。アークエンジェルの戦力はメビウスが数機だけ。これではジン1機相手でも厳しいというのがムウの意見だったし、アークエンジェルを絶対に敵に渡してはならないというのがマリューの意見だった。特に、奪われた機体のストライクガンダムは、アークエンジェルが積んでいる支援装備があると攻撃力が一層増すからだった。

ナタルは、最初のうちは以前5機のジンを葬ったムウがいるので、何とか戦えるのではないか、「G兵器」を奪還出来ないかと主張したのだが、ムウは冗談じゃないと言った。多くの戦艦やモビルアーマーという仲間がいてこそ、ようやくジンを倒せたのだ。今この状況では、圧倒的に不利であると。それに、敵の保有しているジンは10機近いだろうし、先程の戦闘ではようやく1機のジンを中破させたにすぎないのだと。

しかも、ムウはもう一つの不安材料を口にした。ザフトは、奪取した「G兵器」を投入してくる可能性があるというのだ。ムウは、そうなったら万が一の勝ち目も無いという。

マリューは、OS(基本ソフト)などのソフトが未完成だから、それは絶対にあり得ないと主張した。だが、ムウは専門家のコーディネーターならば数時間でソフトの改良は可能かもしれないと言う。ジンのソフトを改良すれば、その時間はもっと短縮出来る可能性があるとも。

そうなると、PS装甲を装備しているために弾丸やミサイルなどの実体弾が効かない「G兵器」は、かなり厄介な相手になるという。正直言って、ビーム兵器を搭載していない味方のモビルアーマーでは、全然太刀打ちできないと言うのだ。

いくらアークエンジェルの武装が強固だとしても、補給無しではいつか弾切れとなって、最後は単なる大きな的になり、なぶり殺しになるだけである。下手をすると、艦橋をピンポイントで狙われて鹵獲されかねない。だから、何がどうあってもとにかく逃げるしかない、それがムウの主張だった。

そんな話を大声でするものだから、キラ達はとっても不安な気持ちになった。




「ええっ、また出撃ですか?」

クルーゼから、再度出撃を命令されたミゲルは驚いた。これで作戦は終了したと思っていたからである。

「ほう、不満かね」

クルーゼの声色が少し変わったため、ミゲルは慌てて否定した。

「いえ、もう獲物は残っていないと思ったものですから」

だが、クルーゼの話では、現在ヘリオポリス内に新造戦艦−コードネームは『足付き』−が停泊しているという。おそらく新型起動兵器の運用艦だろうから、奪取又は破壊せよというのがクルーゼの命令内容だった。出撃するのは、ミゲルを含めて6機のジンだった。それも、D型装備(拠点攻撃用重爆撃装備)なのだという。

「クルーゼ隊長。戦艦1隻に、少々大げさなのではないでしょうか」

首を傾げるミゲルに、クルーゼは念には念を入れるのだと答えた。

「なに、少々嫌な予感がするのだよ。それに、敵には地球連合軍の英雄であるエンデュミオンの鷹、あのムウ・ラ・フラガがいるようなのだ。先程、トロールがやられたのだ」

「トロールが?はい、分かりました。それならば、全力をもって仕留めます」

ミゲルは、クルーゼに敬礼すると部屋を出た。




「ミ〜ゲ〜ル!頑張りなさいよ〜っ!絶対に、生きて帰るのよ〜っ!」

ミゲルが出撃準備をしていると、アスカの声が聞こえてきた。ミゲルも大声で返事をする。

「お〜っ!任せておけ〜っ!作戦に成功したら、キスしてくれよな〜っ!」

「ほっぺならいいわよ〜っ!」

アスカの返事を聞いて、パイロット連中は全員色めき立つ。

「ずるいぞ、ミゲル!」
「お、俺も〜っ!」
「俺もお願い、アスカちゃ〜ん!」

「はいはい、いいわよ。但し、みんなもほっぺよ」


「「「「「お〜っ!」」」」」
「ちぇっ」

ミゲルを除くパイロットは、飛び上がらんばかりに喜んだ。これで勇気百倍である。そして、意気揚々と出撃して行った。

「まあ、いいか。これで、みんなが無事に帰って来れば」

アスカは苦笑した。本当は、好きでも無い男にキスをするなど論外であるが、少しでもみんなが生きて帰って来る確率が上がるならば、頬にキスする位ならばいいだろうと思ったのだ。今のところ、アスカがキスをしても良いと思うような男はいない。ニコルやアスランはかなり好きだが、義弟と親友の婚約者でもあるし、男として好きなのかと言うと、そこまでの自信はないのだ。

だが、そんなアスカの想いをあざ笑うかのように、約1時間後に驚くべき連絡が入った。ジン部隊全滅の報であった。そして、ヘリオポリスの崩壊が始まったのである。

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