PHASE14 戦士の休息 


地球に降りたアスカ達は、何事もなくジブラルタル基地に到着した。そこで、地球軍の重要拠点であるビクトリア宇宙港陥落という朗報と共に、「砂漠の虎」アンドリュー・バルトフェルドが足つきを攻撃して、さんざんな目に遭って敗退したとの知らせを聞く。どうやら、足つきは全くの無傷だったようだ。

「良かった……。みんな、無事なんだね」

キラは、ほっとして肩をなでおろすが、アスカはキラを小突く。

「あんたねえ、味方がやられてその態度はないでしょうが。他の隊の奴らがいたら、あんたはただじゃすまないわよ」

目を吊り上げて睨むアスカに、キラは平謝り。そこに、アスランがフォローに入る。

「まあ、いいじゃないか。キラだって、残してきた友達のことが心配なんだろ?その気持ちは良く理解できるさ」

キラに甘いアスランは、キラの肩を軽く叩いて励ますが、ディアッカはアスカの味方をする。

「いんや、やっぱまずいぜ。ここにイザークがいたら、ただじゃ済まん。キラ、お前は自分がザフトに入ったことを自覚すべきだろうが」

ディアッカの言うことは尤もだったので、キラは黙って頷く。今は仲間うちだからいいが、これを他のザフト兵士に聞かれたら、流石に一波乱ありそうだということは、ザフトのことを良く知らないキラでもわかったからだ。キラは、サイ達の無事を喜ぶあまり、浮かれすぎてしまったと反省の言葉を口に出す。

「さあて、暗い話はここまでよ。早速イザーク達と合流しましょ」

暗い顔をして落ち込むキラを見て、ちょっと言い過ぎたかと思ったアスカは、先頭に立って歩き始めた。




「おい!そいつらは何者だっ!」

イザークは、アスカ達と会うなり、凄い剣幕でキラとナチュラルの少女――ヒカリ――のことを指して詰問する。

「それは、アタシから説明するわ」

アスカは、キラが足つきに囚われていたオーブのコーディネイターで、このたびザフトに志願したと、殆ど嘘で塗り固めた話をした。ヒカリについては、ザフトの心無い男共に襲われたため、ヒカリを助けた自分に付いて来たいと望んだからだと正直に説明した。

「許せんな。ザフトに、そんなクズ野郎がいるとはな」

イザークは、ヒカリを襲ったザフト兵に憤慨する。ラスティも、イザークの横でしきりに頷く。

「というわけで、キラはパイロットとしてアタシたちと行動を共にするわ。部屋はアスランと一緒よ。ヒカリは、アタシと一緒の部屋で、雑用をしてもらうわ。それから、アタシ達の隊長はアスランで、副隊長はアタシになるから、よろしくね」

アスカが最後に爆弾発言をすると、イザークが真っ赤になって怒り出した。

「なんでアスランが隊長なんだよっ!」

イザークは、せめてアスカがなるべきだろうと言ったが、ラスティはそれは無理だと横から口を出す。

「アスカは、ナチュラルの女じゃないか。しかも、ここは宇宙じゃないから、アスカの手柄は知られていない。アスカが隊長になったら、他の隊との連携は期待出来ないさ。だが、アスランが隊長なら、他のザラ派部隊の支援も期待出来る」

ラスティの鋭い指摘に、イザークは黙ってしまう。元々イザークは、ライバルのアスランが隊長になることが気に食わなかっただけで、深く考えずに言ってしまったこともあるようだが。

「それによお、アスランはネビュラ勲章を2つも貰えるしなあ」

ディアッカの呟きに、イザークは目を剥く。ネビュラ勲章といえば、ザフト軍人最高の名誉だ。それを、なんでアスランが2つも貰えるのかと。

「なんだとっ!」

イザークは、今にもディアッカに飛び掛りそうな勢いだ。イザークだけでなく、ラスティも驚きで目を丸くする。

「まあまあ、その話はここではなんだから」

アスカは、苦笑しながら別室で話そうと提案した。




アスランには、キラとヒカリをアスランの部屋に連れて行かせた。アスカは、ディアッカと一緒に自分の部屋でイザークやラスティに事情を説明することにした。

「……というわけで、アタシ達全員がネビュラ勲章を貰うことになったのよ」

アスカは、ナチュラルである自分が突出した功績をあげると、後で面倒なことになりかねないので、手柄をみんなに分け与え、その見返りに困ったときに助けてもらうことにしたのだと説明した。助けてくれる者が、ネビュラ勲章を受章したかどうかで、状況は大きく変わるのだとも。

ネビュラ勲章の件については、手柄を立てたアスカの意向ならばしょうがないと、イザークとラスティは承知し、アスカに困ったことがあったら必ず助けると約束した。ナチュラルであるアスカの立場が複雑であることは、イザークやラスティも十分認識しており、実際にアスカが困った時には、イザーク達の持つ勲章が多いほうがいいに決まっているからだ。

また、アスランは元々ラクス救助の功績でネビュラ勲章を受章することになっていたので2つ受章することになるが、何よりもラクス救出の功績が大きく、ザラ派だけでなくクライン派からも支援が期待出来るので、隊長としてこれほど適任の者はいないとアスカは力説した。

これは、ラスティがさきほど別の観点からもアスランが適任だと説明をしたこともあり、イザークは渋々ながらも納得した。イザークも歴戦の兵である。他の部隊からの支援、とりわけ補給の重要性については、十分すぎるほど理解しているのだ。

「まあ、実質的な隊長はアタシになるかもしれないけどね。アスランとラスティとキラがα小隊で、アタシとイザークとディアッカがβ小隊になるからね」

これからはよろしくねと微笑むアスカに、イザークとディアッカは少し顔を赤くして頷いた。




一方、砂漠の虎の猛攻撃を凌いだアークエンジェルは、夜明けを待ってレジスタンスグループ『明けの砂漠』と合流していた。そこでカガリには、キラと出会う代わりに、別の人物との出会いが待っていた。

「お、お前らっ!どうしてこんなとこにいるんだよっ!」
「カ、カガリ!それに、お父さんまで!」

カガリとマナは、顔を合わせるなり大声で叫ぶ。だが、即座にキサカがカガリの口を塞ぎ、マナの口はマユラが塞いだ。そして二人とも、小声で注意を受ける。だが、既に遅かったようだ。二人の言葉は、皆が聞いていたからだ。

「おいおい、どうした?まさか、知り合いなのか?」

ムウは、まさかこんなところに知り合いがと、驚いた表情で尋ねる。マリューも驚いているが、サイーブも驚いている。『お父さん』という言葉を聞いたからだろう。

「お嬢ちゃん。あんたのお父さんって、一体誰なんだ?」

目を細めるサイーブだが、マナから答えを聞くことは出来なかった。キサカがマナの前に進んできたからだ。

「マナ、どうして地球軍の戦艦なんかに乗っているんだ?」

キサカの質問に、マナは苦笑するしかなく、答えることが出来なかった。キサカの後ろでは、カガリがマナとマユラを思いっきり睨んでいた。




衝撃の出会いから色々とあったが、キサカとマナが親子であることが知れると、双方の緊張感は一気にしぼみ、フレンドリーな雰囲気で交渉が行われた。交渉は、サイーブ・キサカとマリュー・マナで行われ、マナの泣き落としに近い頼みで、『明けの砂漠』はアークエンジェルに協力することになった。

そして、アークエンジェルはレジスタンスの先導するバギーに付いて、東に200キロ離れたレジスタンスの基地へと向かうことになった。その間、カガリとキサカはアークエンジェルに乗って、アストレイを見ることになった。

「お父様だけでなく、お前らもかっ!」

アストレイを見たカガリは、顔を真っ赤にさせて怒りを露にする。

「まあまあ、そう怒らないでよ。オーブを守るのには、これが必要なんだからさ」
「そうですよ、カガリ様。私達は、国を守りたいんです」

マナとマユラは、二人がかりでカガリを説得にかかる。最初は怒りまくっていたカガリも、二人の言い訳を聞くうちに、どうやら気持ちが落ち着いてきたらしく、二人を咎めるようなことは言わなくなったが、いきなりとんでもないことを言い出した。

「これ、1機でいいからここに置いていけないかな?」

カガリは、今までの戦いで全くザフトのバクゥに敵わなかったことを、気にしている様子だった。物欲しげな顔をして、アストレイを見つめる。さきほどまでは、アストレイを造るのはけしからんと言っていたのに、全く現金なものだ。

「今は無理よ。なんとしてもこの機体を、無事にオーブに届けなきゃいけないもの」

マナは、即座に否定する。いくらカガリの頼みでも、機密の塊であるアストレイを、レジスタンスに渡すことは出来ないからだ。何よりパイロットがいないから、レジスタンスには扱えないはずなので、それを理由にカガリを納得させようとする。

「そうか、パイロットがいないか……」

カガリは、がっくりと肩を落とす。カガリ達は、先ほどの戦いで戦闘に加わるべく様子を見ていたのだが、レイの指揮の下、アークエンジェルはザフトを見事に追い返したため、参加出来なかったのだ。

105ダガーやアストレイは、最初は砂に足をとられてバクゥの動きについていけなかったのだが、レイが運動プログラムのパラメータを書き換えて送信してからは見違えるほどに動きが良くなり、3機が上手く連携して見事バクゥの部隊を撃退したのだ。おかげで、カガリ達が用意しておいた地雷原が無駄になってしまった。

カガリは、今まで全く敵わなかったバクゥを、見事に撃退したモビルスーツに強い興味を持ったようだ。アストレイがあれば、ザフトに対抗できる、そんな思いがカガリの頭の中を支配しようとしていた。そんな折、カガリの思考は中断されることになる。

「あれ、ここで何をしてるの?」

カガリが声のする方向を見ると、中性的な顔立ちの少年が微笑んでいた。

「うん、お前は誰なんだ?」

カガリが名前を尋ねると、少年は笑って答えた。

「僕は、シンジ・アルスター。105ダガーのパイロットだよ。カガリさん、よろしくね」

カガリは、シンジのことを弱っちい奴だなと思い、第一印象はあまり良くなかった。




アスカは、ジブラルタルに午前中に到着していたため、午後には早速休暇を取って、近くの海へと繰り出した。アスラン達はもちろんのこと、ジブラルタルにいた士官学校同期の女の子も誘ってのことだ。

アスカは、ビーチバレーをすることを提案し、男女でペアを組んで総当たり戦をすることになった。キラと組んだアスカは、他のペアを圧倒した。何せ、アスカは他の男共よりも上手く、キラも女の子よりは上手かったのだから、当然の結果だろう。

「そうりゃあーーっ!」

アスカの気合が入った弾丸サーブが、ディアッカを襲う。

「げーっ、参ったーっ!」

まだ地球の重力に慣れていないディアッカは、アスカのサーブを満足に拾えていないし、拾ったとしてもペアの女の子に繋ぐことが出来ない。アスカにコテンパンにやられて、へろへろになってしまう。

「ハン!しょうがないわねえ。しっかりしなさいよ」

アスカは、男共に発破をかけるが、効果は無い。結局、アスカの全勝という結果に終わった。2位はラスティ、3位はイザーク、4位はディアッカで、ビリはアスランとヒカリのペアだった。

ちなみに、アスカは気付かなかったのだが、アスカの勝因は、男共が地球の重力に慣れていないことと、ビーチバレー初心者であること以外にもあった。そう、悲しい男の性なのだが、相手の女の子の揺れる胸にどうしても目がいってしまい、動作が一呼吸遅れたのだ。逆に、アスランが負けたのは、胸の小さいヒカリと組んだせいだ。

「じゃあ、30分休憩するわよ。ラスティ、背中にオイルを塗ってちょうだい」

アスカが声をかけると、ラスティはほいほい寄ってきた。優勝した組の男が、アスカの背中にオイルを塗る取り決めになっていたのだが、アスカが優勝した場合は、2位の組の男がその権利を持つことになるからだ。キラは、最初からヒカリの相手と決まっていたので、対象外だった。

満面の笑顔を浮かべてアスカの背中にオイルを塗るラスティを横目で見て、イザークとディアッカは悔し涙を流したのだが、自分達もペアの女の子の背中にオイルを塗ることになったため、泣き顔が一転して笑顔になったのは言うまでも無い。イザーク達は気付いていないようだが、ザフトレッドは、女の子には結構人気があるのだ。

その後は、ラスティの提案で皆が輪になってビーチボールで遊んだり、海で泳ぐ競争をしたりして、アスカ達は久々に伸び伸びとした時間を過ごした。特に男連中にとっては、水着姿の女の子たちの姿、特に揺れる胸やすらりとした生足を見ることが出来たので、いい目の保養になったようだ。

更に、同じメンバーで夕食を一緒に食べて、続けて飲み会を開いたため、今まであまり女の子と遊んだことのない男共は、大いに羽を伸ばして楽しんだ。それだけでなく、キラやヒカリも他のメンバーと、少しなりとも打ち解けることができたようだ。

久々に皆の笑顔を見ることができて、アスカも満足そうな笑みを浮かべていた。




翌日、アスカとヒカリだけが二日酔いになったのだが、午後には元気になったため、同じメンバーで海に繰り出した。そこで、再び楽しいひと時を過ごしたのだが、基地に戻ると嬉しい知らせが届いていた。なんと、明日にラクスがこの基地を慰問に訪れるというのだ。

「いいねえ。こんなところでラクスの歌声が聴けるなんて」

ラスティは、にこにこ顔だ。

「まあ、ラッキーだろうな」

ディアッカも同意する。

「まあ、明日は暇だしな。コンサートを聴くのも悪くないか」

イザークは、『暇だから』を強調するが、イザークがラクスの隠れファンであることを知っているアスカとディアッカは、くすくす笑う。

「へえ、イザーク。あんた、ラクスのファンじゃないの?」

アスカが聞くと、イザークは慌てて否定する。

「い、いや。別にそういうわけじゃない」

真っ赤になって否定するイザークは、とってもわかりやすく、ディアッカは背を向けて笑っている。

「ふうん、そうなんだ。明日、ラクスとそのファンだけで海に行くつもりなんだけど、あんたは行かないのね?」

アスカが意地悪く聞くと、イザークは真っ青になる。

「すまん、今のは嘘だ。俺は、本当はラクスのファンなんだ。だから、俺も一緒に海に連れて行ってくれ!」

そう言ってぺこぺこ頭を下げるイザークを見て、アスカは腹を抱えて大笑いした。アスカにつられて、皆も大笑いしたのう言うまでもない。




そのラクスだが、翌日未明にジブラルタルに到着し、午前中にコンサートを開いた。コンサートは盛況だったが、アスカはラクスを通して良い席のチケットを予約していたため、前の方でラクスの姿が良く見える席に座ることができた。もちろん、皆一緒だ。おかげでイザークなどは、大はしゃぎびだった。

そのコンサートが終わると、頃合を見てアスカは控え室に赴いた。ラクスは、衣装は既に脱いでいて、のんびりとくつろいでいた。

「ねえ、ラクス。今日の予定、空けてくれた?」

アスカが聞くと、ラクスは頷く。

「ええ、大丈夫ですわ。元々コンサートの方がついでですから」

そう言って、ラクスはにっこり笑う。そう、ラクスが地球に来たのは、キラに直接会ってお礼を言うためだったのだ。だが、何の理由もなく来るわけにはいかないので、ビクトリア宇宙港の陥落を記念しての慰問コンサートを開くという名目にしたのだ。もっとも、おかげで他の基地にも行かなくてはならなくなり、結構な過密スケジュールになってしまったのだが。

「じゃあ、早速行きましょう。一緒にお昼を食べましょうか」

アスカは、ラクスをつれてホテルの食堂へと向かう。そこには、アスランとキラが待っていた。

「まあ、お久しぶりですわ、アスラン。それに、先日は大変お世話になりましたわね、キラ様」

ラクスは、アスランとキラの両方に微笑みかける。

「ラクス、お元気そうでなによりです」

アスランは笑みを返すが、何も聞いていなかったキラは、驚いたようだ。

「ラ、ラクスさん。ど、どういたしまして。今度は、僕が捕まっちゃいましたから、立場は変わりましたけどね。今は、ラクスさんの味方ですね」

驚いてどもるキラを見ても、ラクスは嫌な顔をせずに、優しく微笑む。

「良かったですわ。キラ様がお味方になって。これで、アスランとも仲良くしていただけるのですね」

ラクスは、本当に良かったですわと言って手を叩く。

「ええ、そうです。後は、こいつが足つきに残してきた友達を救い出して、敵を叩きのめすだけです」

アスランは、キラが仲間になってくれたので、とても心強いと言う。

こうして、4人だけの昼食を過ごした後は、皆で海で遊んだのだが、ラクスの水着姿を見て男達が舞い上がってしまい、大はしゃぎだったことは言うまでもないだろう。




深夜になり、男共とアスカが酔いつぶれて寝てしまったのを横目に、キラは酔い覚ましに部屋を出た。アスランと自分の部屋が飲み会の会場になってしまったため、ゆっくりと休める部屋が無かったからだ。ちなみに、アスカの部屋には女の子が寝ているらしい。

キラが建物の屋上に出て夜風に当たっていると、しばらくして思わぬ客が現れた。ラクスである。

「ラ、ラクスさん。こんな夜中に、一体どうしたんですか?」

キラが驚いて尋ねると、ラクスはキラにちゃんとお礼が言いたかったのだと答えた。それを聞いたキラは、安堵した。てっきり、怒られるのではないかと思ったからだ。

実は、海辺で遊んでいる時に、キラの手が偶然ラクスの胸を掴んでしまうというお約束のアクシデントがあったのだ。幸い誰にも気付かれなかったのと、ラクスが黙っていたことから、騒ぎになることはなかった。しかし、キラの手には、ラクスの柔らかい感触がいつまでも残っていたし、そのことでラクスが怒っているかもしれないと恐れていたのだ。

そのことをラクスに言うと、ラクスは全然怒っていないし、捕虜になっていた時に優しくしてくれたキラならば、故意ではないなら許しますよと笑う。

「優しく……ですか。でもそれは、僕がコーディネイターでしたから……」

キラは、自分は当たり前のことをしただけなので、ラクスの言葉を意外に感じる。だが、ラクスは目を丸くし、きょとんとした様子で首をかしげる。

「……あなたが優しいのは、あなただからでしょう?私は、キラ様に優しくしてくださったことを、大変嬉しく思っていますわ」

ラクスは、聖母のように清らかで優しい笑顔をキラに向ける。キラはその時、ラクスにならば何でも言えるような気がした。そこでキラは、今まで言いそびれていたことをラクスに頼む。

「でしたら、ラクスさんからも皆に頼んでください。アークエンジェルにいる僕の友達、ラクスさんと一緒に遊び、ラクスさんに優しくしてくれた皆を、助けてあげてほしいと」

キラは、頼むうちに興奮してしまい、思わずラクスの両手を掴む。

「ええ、わかりましたわ。私からも、皆さんに頼みます。ですから、泣かないでくださいね」

「えっ……」

キラは、驚いて目に指を当てる。すると、ラクスの言うとおり、自分の目から涙が流れているではないか。キラは、呆然とした。そんなキラを、ラクスは優しい目でみつめる。

「キラ様は、お優しい方ですね。お友達のことを、それほど心配なさるとは。私には、なんとなくわかります。キラ様は、お友達を心配する気持ちを、ずっと心の中に溜め込んでいたのですね。キラ様、私の胸を貸しますから、どうか思いっきり泣いてください。そうしないと、いつかキラ様の心が壊れてしまいますよ」

ラクスはそう言うなり、キラの頭を胸に抱く。キラは、アスランでさえわかってくれなかった自分の胸のうちを、ラクスが理解してくれたことが、なによりも嬉しかった。

「ううっ……」

キラは、そのうち我慢出来なくなって、泣いてしまった。ラクスの胸の中はとても心地よく、いったん泣くと止まらなくなった。そうして、キラはずっと泣き続けた。ラクスは、そんなキラの頭を優しく撫で続けた。





あとがき

今回は、戦闘の合間の休息の話と、キララクフラグの回でした。
次回(又はその次?)は、アスカガフラグが立つかもしれません。