PHASE17 出撃、アスラン隊


プラントに戻ったニコルは、家のソファでくつろぎながら、のんびりとテレビを見ていた。テレビからは、パトリック・ザラの演説が聞こえてくる。地球軍を激しく非難し、戦争を続けるのはやむを得ないという内容だ。

「確かに……。ザラの言っていることは正しいさ。反対するクラインの方がわからん」

ニコルの父、ユーリは、テレビを見ながら呟く。だが……

「そうかなあ……」

ニコルは、首を傾げる。アスカの影響を受けているためか、パトリックの考えが全て正しいとは思えないからだ。

「おいおい、お前達が奪ったXナンバーの機体。どれほどの脅威かわからないわけでもないだろう?」

ユーリは、ニコルの言葉に驚く。てっきり、姉弟揃ってザラ派に染まっているのだろうと思い込んでいたからだ。ニコルは、ユーリの言葉に頷く。

「うん、わかるよ。ザラ委員長の言っていることは、おそらく正しいよ。でもね、クライン議長の言うことも間違ってはいないと思う。いくら勝ち続けたって、最後の一敗で逆転されるかもしれないじゃないか。ほどほどのところで手を打たないと、ハンニバルや項羽と同じ運命を辿ることになるかもしれないよ」

ニコルは、最後の一敗で全てを失った歴史上の人物を引き合いに出し、勝ち続けることには意味が無いと言う。

「ほうっ、お前が歴史に興味があったとはな?」

ユーリは、今まで気付かなかったニコルの一面に驚く。子供だとばかり思っていたのに、いっぱしの口をきくじゃないかと感心もした。

「なーんてね。姉さんの受け売りなんだ」

ニコルは、照れ笑いを浮かべた。




「ナチュラルの造ったモビルスーツ、それほどの脅威かね?」

パトリック・ザラは、突然背後から声をかけられたため、スクリーンに映るモビルスーツ戦の映像から目を離した。小会議室で録画映像をチェックしていたパトリックが振り返ると、ラクスの父であり、最高評議会議長であるシーゲル・クラインが、ドアのところに立っていた。

「ああ。アスランもアスカも、早く叩かないと大変なことになると言っていた。アスランは、Xナンバーの機体が脅威だと言っていたが、アスカは量産型の01ナンバーの方が更に脅威だと言っている。01ナンバーの方が、コストパフォーマンスに優れているんだそうだ。地球軍が数を揃えたら、今のZAFTでは到底太刀打ちできなくなるそうだ」

パトリックは、眉間に皺を寄せて言う。シーゲルは、パトリックの言葉を静かに聞いていたが、ふいに口を開く。

「そうか……。娘のラクスもアスカから言われたそうだ。敵の本拠地、アラスカを叩けとな。その方が、我が軍や民間人の被害が少なくて済むそうだ。敵軍の本拠地を叩くなんて絵空事だと思っていたが、アスカは3か月もあれば準備が整うと言っていた。君はこの話を聞いて、どう思うかね?」

シーゲルに問われてパトリックは動揺するが、それは一瞬だった。すぐに冷静な声で答える。

「選択肢としては、悪くはないな。実現も、まあ不可能ではない。だが、アラスカの戦力は桁違いに多い。正面からまともに攻めても、決して落ちんぞ」

パトリックの意見に、シーゲルはやはりそうだろうなと言って苦笑いする。

「いや、邪魔して悪かったな。俺の言ったことは、忘れてくれて構わない」

シーゲルは、そう言い残してその場を去る。すると、残されたパトリックは、難しい顔をして考え込む。

「まさか、奴からあの話を持ち出すとはな。この分では、正直に言った方が得策かもしれんな」

パトリックは、アスカからの頼みを思い出した。ZAFTが最大限の力を発揮するために、シーゲルと一致協力して欲しいと。必要ならば、シーゲルを説得するのに力を貸すと。パトリックは、シーゲルとの関係修復を、真剣に考えることにした。




アークエンジェルに戻ったシンジとカガリは、バルトフェルドに出会ったことを、真っ先にマリュー達に報告した。その時ブリッジには、ナタル、ムウ、マナ、レイなどがいて、シンジやカガリを囲んでいた。

「……よく無事に帰れたわね」

マリューは、二人が無事に帰って来れたことを喜ぶ気持ちはあったものの、それ以上に呆れてしまっていた。アランとアスカがフォローしてくれなかったら、二人は今頃どうなっていたか、簡単に想像できるからだ。

「まあ、無事に帰ったからいいじゃない。シンジだって、まさか砂漠の虎と出会うなんて思わないよ」

マナは二人を擁護するが、ムウはそれは違うとたしなめる。

「普通だったら、殺されているさ。砂漠の虎が自信家か、それとも変人だったから助かったんだろ?まあ、幸運を喜ぶのもいいけどさ、今後は二人とも自重しろよな」

さらに、レイもムウに加勢する。

「シンジ君とカガリさんは、単独行動は控えて。特にシンジ君は、パイロットという自覚を持って」

レイは、少し怒っているようだった。

「わかったよ、ごめん。これからは、気をつけるよ」

シンジは、冷静に考えて自分の行動が迂闊だったことに気付き、皆に謝罪した。もちろん、カガリも。だが、二人には決定的に違う点があった。シンジは反省していたのだが、カガリは全く反省していなかったのだ。




さて、その頃ジブラルタルでは、アスカが狂喜乱舞していた。

「やったわっ!これで、地球軍も怖くないわ」

アスカの視線の先には、敵から奪ったG兵器が並んでいた。アスカがアフリカに行っている間に届いたストライクルージュ、ブリッツ、そしてバスターが、デュエルやストライクの隣に置かれていたのだ。だが、アスカが喜んでいたのは、モビルスーツが届いたからだけではない。なんと、転用したものではあるがエールストラーカーパックが用意されており、しかもちゃんと空を飛べるというのだ。この地球では、空を飛べるかどうかで戦術の幅が大きく変わってくる。当然、空を飛べた方が断然有利なのだ。

「これで、アークエンジェルは終わりっしょ」

ラスティは、もう勝った気でいる。なんとも気が早い。

「当然だ。俺様が奴らを倒すんだからな!」

イザークも、鼻息が荒い。

「でも、お手柔らかにお願いしますね」

キラは、小声かつ控えめに言う。モビルスーツの力をよく知るキラから見て、この戦力ならばアークエンジェルを沈めるのに十分だと思えたのだ。キラとしては、サイやトール達を是非とも無事に救い出したい。出来れば、アークエンジェルで知り合った人達もだ。

「大丈夫だ、キラ。チャンスはいくらでもある。俺達を信じろよ」

アスランは、キラの肩を叩いて励まそうとする。キラは、そんなアスランの心遣いが嬉しくて、思わず泣きそうになった。そんなキラを見て、アスカは少し呆れる。

「アンタ、涙脆いのねえ」

アスカは、肩を竦める。それだけではなく、こんな奴を戦場に連れて行っても大丈夫なのかと、少し不安になった。そんなアスカの心の内がわかったのか、キラはきりっとした顔になり、力強く言う。

「ええ、そうかもしれません。でも、戦場では全力で戦います。決して足手まといにはなりませんから」

キラは、必死な顔をして訴える。自分がいた方が、友人達が助かる確率が高くなると思っているからだ。

「大丈夫だ、キラ。一応、俺が隊長だからな。アークエンジェルのことは、任せておけ。アスカも、アークエンジェルは沈めるよりも鹵獲したいと言っているしな」

アスランは、キラに落ち着くようにと言う。だがそこで、アスカはうーんと唸る。

「キラの機体は、今まで通りでいいかしら?アスランは、イージスのままがいいの?」

アスカの問いに、アスランは考え込む。確かに空を飛べる機体は魅力だが、機体の制御が難しそうだ。それに、隠れる場所がないことから、的になりやすいというリスクもあるし、墜落したら大破は免れない。メリットも多いが、デメリットも同じくらい多いのだ。

「イージスは、指揮能力が高いからな。空を飛べないこと以外は、俺に向いている。それよりも、イザークはどうなんだ?」

急に話を振られたイザークだったが、慌てずに落ち着いて答える。

「俺は、機体を変える気はない。空を飛べなくても、グールがあるさ」

イザークも、デュエルから降りる気はないらしい。おそらく、アスランと同じ考えなのだろう。

「俺も、バスターが気に入っている。このままでいい」

ディアッカも、バスターに引き続き乗りたいと言う。バスターからストライクルージュに乗り換えると、今までと戦法が全く違うものになるだろうから、最初はかなり戦いづらいはずだ。ディアッカは、当然そのことに気付いているのだろう。

「そうすると、ブリッツが余るのよねえ。ちょっともったいない気がするから、アタシが乗ろうかしら」

アスカは、うーんと考え込む。せっかく3機も飛べる機体があるのだから、余らすのはもったいない。とはいえ、慣れない機体に無理やり乗せてもどうかと思う。そうなると、アスカがストライクルージュに乗ることになるのだが、ブリッツを使わないのはもったいない。

「ブリッツか……。確かにあれを使わないのは惜しいが、作戦によって使い分ければいいだろう。今からニコルを呼び戻すわけにもいかないだろうしな」

アスランは、肩を竦める。ニコルやミゲル達は、すぐには戻っては来ないのだ。

「あのお、ブリッツが余るんなら、僕が乗りましょうか」

その時、キラがおずおずと発言した。するとアスカは、にやりと笑う。

「そうね、それがいいかもね。キラが近寄ってアークエンジェルの弱点を突いて、ついでに友達を連れてくれば、一石二鳥だわ」

アスカは、急に乗り気になる。アスカは、本心では空を飛ぶ機体に乗りたかったのだ。そう、決して赤い機体に乗りたいというわけではない……多分……。キラがブリッツに乗れば、キラの友達の助けを借りられる可能性もあるし、なかなかいい考えに思えたからなのだ。

「だがよ、昔の仲間が乗った艦を攻撃できんのか?急に怖気づいたら、俺達もやばくなるぜ」

ディアッカは、キラのことをまだ信頼してはいないので、ついつい不安を口に出す。もっとも、自分の命も懸かっているのだから、疑うのも無理は無いだろう。もちろん、アスカはそういう疑問が出てくることは織り込み済みだ。

「そうね、いきなりアークエンジェルを攻撃するのは、ちょっとリスクが高いかしら」

アスカは、キラをテストしようと提案した。




夜になって、シンジはアークエンジェルの外に出た。そしてシンジは、しばらく夜空を見上げていた。夜空は、ヘリオポリスから見えた宇宙と比べて、星の数が少ないのと、星がまたたいて見えるという違いがあった。シンジは、夜空を見上げながら、何事かを考えているようだった。

「おい、どうしたんだよ、シンジ」

そこに突然カガリが現れた。シンジは、静かに思いに耽るひと時を邪魔されて苦笑するが、カガリの性格もわかっているので、仕方ないと諦める。

「ああ。あの二人のことを考えていたんだ。アラン君とアスカさんのことを。よく考えれば、あの二人は命の恩人なんだよね。アラン君は、ブルーコスモスに襲撃されたとき、僕らを守ってくれたよね。アスカさんは、うっかりパイロットだということを喋ってしまった僕を、身を挺して庇ってくれたよね。あんなによくしてくれたのに、僕はアスカさんの頼みをむげに断ってしまった。そのことを後悔しているんだよ」

シンジは、アスカの頼みをもう少し聞くべきだったと後悔している、そう白状した。もしかしたら、あの街から離れたくて密航したかったのかもしれない。それならば、望みをかなえるべきではなかったかと。しかし、カガリは気にするなとシンジに言う。

「確かによくしてくれたけどな、あいつら。でもよ、万一スパイだったらどうするんだよ」

カガリがシンジを励ますつもりで言ったこの言葉に、シンジは猛烈に反発する。命の恩人をスパイ呼ばわりするなんて、とんでもないと。

「いくらカガリだって、あの二人のことを悪く言うなんて許せないよっ!」

シンジは激高し、カガリを睨みつける。それに驚いたのは、カガリだ。普段は温和で気の弱いシンジが怒るところなんて、思いもよらなかったからだ。

「わ、悪かったよ。でもよ、なんでそんなに怒るんだよ。まさか、シンジ。アスカに惚れたんじゃ?」

カガリは、シンジの怒りをそらそうとして、適当なことを言ったのだが、シンジの顔が真っ赤になって押し黙るのを見て、呆気に取られる。

「……そんなこと、わからないよ」

シンジが小声で呟いたのだが、カガリには聞こえなかった。だがシンジには、もう一度アスカに会いたいと思う気持ちが強く芽生えていた。




翌朝未明、ジブラルタル基地からアスラン隊が出撃した。目指すは、ユーラシアの前線基地だ。その基地は三方を河に囲まれているため、モビルスーツ隊や戦車隊が攻め込める方向が限定されていた。そのためか、何度か他の部隊が攻撃したのだが、そのことごとくが失敗に終わっていた。

「おい、みんな。あと1時間で到着するぞ。作戦は、昨日のブリーフィングで伝えた通りだ。機体のチェックは念入りにしておけよ、いいな?」

アスランが無線で伝えると、みなが了解の返事をする。アスラン隊のメンバーは、既にモビルスーツに乗り込んでおり、コクピットで待機している。そして、優秀な兵士であるみんなは、アスランに言われなくとも、入念に機体のチェックをしていた。

今回の作戦は、キラが敵陣深く侵入して、敵の航空戦力を叩く。それと同時にディアッカ、ラスティ、アスカの3人が河の向かい側から陽動攻撃を仕掛けて敵の注意を引く。その混乱に乗じてアスランとイザークが攻め込み、それに呼応してラスティとアスカが空から河を飛び越えて、アスラン達の攻撃を支援するというものだった。そして30分後、アスラン分隊とアスカ分隊に別れ、目的地へと向かう。




目的地に着いたアスカ分隊は、それまで乗っていた輸送機から降りて、作戦開始時間まで待機した。そうして作戦開始時間になると、モビルスーツを敵基地に向けて走らせる。

「アンタ達、遅れるんじゃないわよっ!」

アスカの命令に、ディアッカとラスティが応える。

「大丈夫だってーの」
「問題ないっしょ」

ディアッカとラスティは、ほぼ同時に返事をした。

モビルスーツの動きは、当然ながら人間よりもかなり遅い。だが、そのサイズが大きいがために、走るスピードはかなり速い。アスカ分隊は、ほどなく敵基地からもっとも近い遮蔽物である小高い丘に到着する。

「ディアッカ、ラスティ、用意はいい?」

「ああ、任せとけ」
「当然っしょ」

アスカの呼びかけに、ディアッカとラスティは即座に答える。アスカは、敵の基地の様子を注意深く観察し、攻撃のタイミングを計る。予定通りにいけば、あと数分で敵基地に火の手が上がるはずだ。アスカが今か今かと待ち構えていると、ほどなく敵基地の方向から爆発音が聞こえ、紅蓮の火の手が上がる。

「ディアッカ、ラスティ、ゲーヘン!」

アスカの乗るストライクルージュは、敵基地へと向かって走り出した。




ミラージュコロイドを使って、まんまと敵基地に侵入したキラは、頃合を見て攻撃を開始した。最初に、今回特別に装備した多弾頭ミサイルを発射した。半分は空港で大気中の戦闘機と戦闘ヘリに、残り半分は戦車や装甲車が固まって駐車している場所目掛けて。10発のミサイルは、1,000発の孫爆弾に分かれて、敵の兵器を思うがままに蹂躙し、敵基地は一瞬にして爆音と炎に包まれた。

「うわあああああああああーーーーーっ!」

キラは、叫びながら視界に入った兵器を片っ端からレーザーライフルで撃っていく。ミサイルで撃ち漏らした戦闘機、ヘリ、戦車、装甲車、対空砲、その他諸々の兵器を、アスカに指示された優先順位に従って、次々に破壊していく。兵士が乗り込む前に、どれだけの兵器を壊せるのかが作戦の成否を分けるので、キラは必死になって攻撃を続けた。

むろん、敵基地の中は蜂の巣を突いたような騒ぎになり、大勢の兵士が右往左往する。だが、真っ先に航空戦力と機動兵器を失ったためか、有効な反撃はなかなか来ない。外からの攻撃には強かったこの基地も、中からの攻撃には全く対応できないらしい。

「キラ、待たせたわね!」

そうこうしているうちに、アスカから通信が入り、河の向こうから支援攻撃が始まった。バスターは、リニアレールガンと高エネルギーライフルを抱えて、敵の射程外から攻撃を加えてくる。2機のランチャーストライクルージュも、超高速インパルス砲“アグニ”やミサイルを撃ち、基地の外側に並んでいる敵の砲台を次々に潰していく。

既に戦闘機や戦闘ヘリは殆ど破壊してあるため、アスカ達を攻撃する手段が敵には無い。アスカ達の攻撃は、面白いように敵基地を蹂躙していく。

「ようし、キラ。よくやったぞ」

そこにイージスとデュエルが突っ込んできて、ビームライフルを乱射する。敵からの反撃は、今や殆ど無い。アスランとイザークは、動く敵には即座に銃撃を加え、敵の組織だった反撃を許さない。

「ふうっ、もうすぐ終わりかな」

キラが一息つくと、いきなり警告音が鳴る。背後から、運よく生き残っていた戦車の砲台が狙っていたのだ。

「まずい!」

キラは青くなってその場を離れようとしたのだが、敵戦車の動きの方が早かった。既に発射体勢に入っていたのだ。

「キラ!油断大敵よっ!」

その時突然アスカの声が聞こえ、同時に背後の戦車が爆散する。エールストライクルージュに換装したアスカによって、砲弾を発射する直前の敵戦車に、ビームが撃ち込まれたのだ。キラは、危機一髪助かった。

「アスカ、ありがとう。命拾いしたよ」

キラは、どっと冷や汗をかくのだった。




戦闘がほぼ終了すると、アスランは敵に投降を呼びかけた。敵兵士の半数は逃げたようだが、かなり大勢の兵士が残っていた。アスランは、地球軍の兵士を飛行場に集め、武装解除を指示した。飛行場には数万の兵士が集まっていたが、その多くが怯えた顔をしていた。

そこに、ZAFTの増援部隊が駆けつけた。その部隊の中には、ヒカリがいた。ヒカリの役目は、地球軍兵士を落ち着かせることだった。ヒカリは、大人しくしていれば危害は加えられないことを説明し、武装解除の徹底を求めた。偶然、投降した兵士の中にヒカリと同期の兵士がいたため、その兵士を仲立ちとして地球軍の最高位の者から指示をしてもらったため、投降兵士達の収容はスムーズに行われた。




アスカ達は、増援部隊が来た時点でお役御免となり、休憩に入った。作戦開始から、既に7時間が経っていた。

「さあ、昼メシにしようぜ」

アスランは、皆に声をかけてからイージスから降りる。アスカ達もモビルスーツから次々に降りて、持参した携行食を口にする。

「そうだ、キラ。アンタ、一応合格よ。よくやったわ」

食べている途中で、アスカは唐突にキラに声をかける。

「えっ、本当?それじゃあ、これからも一緒にいられるんだね」

キラは目に見えて安堵し、大きく息を吐いた。これで、アークエンジェルの友達を死なせなくてすむかもしれないと思ったのだろう。

「ああ、お前はよくやったよ。アスランの友達にしてはな」

イザークは、アスランへの皮肉を込めて言う。

「ああ、なかなかいい動きだったぜ。あれなら、俺達の足を引っ張ることもないだろうな」

ディアッカは、キラに対する不安が完全に無くなったようだ。

「まあ、これなら大丈夫っしょ。これからは、仲良くしような」

ラスティも、キラのことを仲間と認めた。

「ありがとう、みんな……」

キラは嬉しくて、涙ぐんでしまった。




ジブラルタルに戻ったアスカ達は、基地の司令から直々にお褒めの言葉をいただいた。何か望みはあるかと聞かれて、アスカはアークエンジェルを討ちたいので、北アフリカに援軍として行きたいと言ったところ、快諾された。

「バルトフェルドから、増援の要請があってな。バクゥを送ってくれと頼まれたんだが、こちらにも余裕は無いので、ザウートを送ろうと思っていたんだ。君達が行ってくれるなら、心強いだろう」

司令は、当面の脅威であったユーラシアの基地が落とされたためか、上機嫌だった。だが、アスカが異を唱える。

「アークエンジェルは、想像以上の脅威です。我々アスラン隊が全力でかかっても、勝利する可能性は低いでしょう。出来れば、宇宙に残してきた仲間が来るのを待ってから攻めたいのですが、時間がそれを許しません」

アスカは、今日潰した基地などとは、比べ物にならないほどアークエンジェルは手強いと強調した。だから、ザウートは足手まといにしかならない、送るならバクゥにして欲しいと訴えた。

「あの基地も、十分手強かったんだがな。それを君達は、易々と攻略した。その君達でさえ勝てないアークエンジェルか。確かに、一筋縄ではいかない相手だろうな」

司令は、ザウートを今日攻略した基地の防衛に充てることとし、バクゥを3機回すことを約束した。




その夜、アスカは作戦会議を開いた。

「今回は、機体を変更してもらうわ。持って行くのは、バクゥが3機とストライクが3機よ。この中で、乗る機体を決めましょ」

唐突なアスカの宣言に、イザークが反発した。

「おい、勝手に決めるなよ。俺は、デュエルから降りる気は無い」

だが、アスカはイザークを睨む。

「だったら、足手まといになるから、アンタはいらないわ。イザーク。アンタ、砂漠を舐めてるでしょ。デュエルなんて、向こうに行ったら砲台代わりにしかならないわよ。砂漠では碌に動けないしね。そんなこともわからないわけえ?」

アスカの剣幕に、イザークはタジタジとなる。そこでアスカは、戦場を研究しないなんて自殺行為だ、なんでこの前アフリカに行かなかったのかとなじられ、負い目があったイザークは、渋々承知する。

「わかったよ。じゃあ俺は、ストライクに乗る」

イザークが落ちると、ディアッカはすぐに落ちた。ディアッカも、ストライクに乗りたいと言う。

「わかったわ。それじゃあ、バクゥに乗るのはアタシとキラ、それにラスティね。アスランは、上空から指示を下してちょうだい。いいわね?」

アスカのその言葉で、作戦会議は無事終わった。

「あの、俺が隊長なんだけど……」

アスランは呟くが、誰も聞いてなかった。






あとがき

次回、アスカ達は再びバナディーヤへ向かいます。果たして、アスカ達はアークエンジェルを討つのでしょうか?